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2013年3月 1日

闇をくぐった光 (桜井章一『負けない技術』)

桜井さんは麻雀の裏プロの世界では、「雀鬼」とたたえられ、怖れられました。勝負師です。麻雀の裏プロには代打ちというものがあります。これはやくざの親分や社長の代わりに麻雀を打つことのようです。そのため、その世界で一度でも負けると、もうその街にはいられなくなるそうです。彼は昭和30年代後半からその世界で勝ち続け、20年間負けなしの無敗伝説を作りました。1943(昭和18)年生まれです。

Photo表紙の表情や風貌にあるように、見るからに勝負師といった顔をしています。背筋も伸びています。

漫画などでよく彼をモデルにした作品が作られ、雀鬼の名が広く知られるようになりました。

現役引退後、「雀鬼会」を主宰しています。これは麻雀を通して人間力を鍛える場です。そこに全国から若者が集まっています。汚い世界で人間の闇を見続けたため、引退後は世の中のために尽力したいとの思いが募ったのかもしれません。

書名に『負けない技術』とありますが、決して弱腰の考えではありません。著者は言います。勝ちたいという考えは自然界の中には存在しない。自然界の中にいる動植物たちには、本能で生きる、つまり負けないという普遍のスタンスがあるだけで、それ以上でもそれ以下でもない。そう説いています。勝つと負けないは違うと言っています。勝ちにいくと、欲が出ます。汚い手も出ます。それよりも負けない方が強く、自然に則っていると言うのです。桜井さんは現役時代、相手が汚い手でくると、自分はもっと汚い手を使って勝っていたそうです。それがこの本を書く時期には「勝つのではなく、負けない」という境地に達しました。この本では負けないことの強さ、大切さを説いています。

ここでは彼なりの生きる術が書かれています。至極全うなことが書かれています。雀鬼という異名のイメージが強い人には肩透かしを食うかもしれません。いくつか列挙します。

・振る舞いは力まず、柔らかく。
・自然や下の者から教わる大切さ。
・勝ち負けよりもいい勝負で己は成長する。
・輝く手に乗り、汚い手には乗らない。
・耐えているときも楽しめる感覚。
・守るのではなく、受ける。
・自分だけでは駄目。相手も尊重し、生かす。
・逃げたら弱る。

特に僕が共鳴したことが二つあります。
一つ目は、なめた余裕は単なる油断。本当の余裕とは、精神面、技術面を含め、その人がそれなりのレベルに達していなければ出てこない。不十分な実力のまま、相手に勝ちを勧めているだけで勝てるほど、勝負の世界は甘くない。日頃から「準備・実行・後始末」の鍛錬を積んだ上で、敵に「どうぞ」と言えるのが本当の余裕だ。本当に強くないと口にはできないことである。これが一つ目です。
二つ目は、野球の投手が、「どうか打たないで」というマイナス思考で投げた球より、「打てるもんなら打ってみろ」と余裕を持って投げた球の方が、勢いは確実に増す。でも、この余裕は断じて相手をなめていない。
この二つがとても印象に残りました。

麻雀の言葉はほとんど出てきません。なので、麻雀をやったことのない人でも読めます。勝負師の話として。これは自己啓発や精神論に当たるのではないでしょうか。桜井さんの本は他にもありますが、僕はこの一冊しか読んでいません。ですが、この本は彼の考えがよく書かれていると思います。麻雀の厳しい世界で生きてきた人生の先輩として、麻雀に関心のない人にも興味深く読める本だと思います。
これは一人の勝負師として生きてきた証と言えるかもしれません。

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コメント

桜井さんは、東映Jシネマの「雀鬼」シリーズのモデルとして有名です。このシリーズはすべて拝見させて
頂いております
エンターテイメント仕立てなのでほとんどがフィックションだとは思いますが、自称元麻雀打ちの私としてはとても楽しめました。
桜井章一役の清水健太郎さんは桜井さん本人から
牌の捨て方や牌のツモリ方(麻雀用語で牌を取るのをツモると言います)を実際に教わっているところを本編の後にメーキングビデオとして3分くらい入っていたのを思い出しました。

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